だから私達は空を見た。RICOH GRIIIで。

やあ、ソドム-Yだ。みんなも知っての通り、今ゾンちゃんは睡眠時間が伸びていて動ける時間が少ない。ああ、その件についての詳細はこの前私が書いたお手紙を見てほしい。(お手数おかけいたします。)

 

唐突な話だが、ゾンちゃんは空が好きだ。本当に、空を見たがるのだ。

まぁ、あまり長い前置きはやめておこう……。今日は、彼女の空の話だからな。

うひひ、私は空が好き。多分、空の写真を撮るのが好きだから

ゾンちゃん

うひひ。

ソドム-Y

ゾンちゃん今日はごきげんだな。

ゾンちゃん

うひひ、空を見てるの。

ソドム-Y

……ここは部屋の中だが。

ゾンちゃん

これこれ、GR III!背面モニターがきれいだからちゃんと空が見えるよ。

ソドム-Y

GRはモニターにこだわりを感じるシリーズ、その最先端だからな。

ゾンちゃん

うひ、ソドム-Yちゃんも一緒に見る?

ソドム-Y

ああ、見させてもらおう。私はゾンちゃんの撮る空が大好きなのでな。

 

この会話の後、私は数枚の写真を見せてもらった。そしてゾンちゃんはまた眠りについた。本当は彼女自身が、自分の撮った空について語りたがっていたのだが……眠気に勝てず、私に託されたというわけだ。

私は彼女ほど情熱的に語れないかもしれないが、今日も少し私の言葉につき合っていただきたい。

 

一枚目の空は私も覚えがある。これは二人で訪れた場所だ。

この空を見た時、ゾンちゃんは「空らしい空」の定義について考えていた。

川の見える場所から私達はそれについて議論したが、結局答えは見つかっていない。強いて言うなら、その会話の合間に飲んだ果汁100%ではないオレンジジュースの酸味が、妙に体に優しく感じたことから夕方の空を連想したくらいか。

ああそうだ、この写真の空に関しては、ゾンちゃん自身は「一つ気に入った雲があった」と言っていたな。(どの雲なのか聞き忘れてしまったが。)

 

次の空はこれだ。

これは車から撮影したもののように見えるが……。私と会う前のものだろうか?(どのタイミングを私と「会った」とするかはややこしいのだけれど。)

そうそう、今日の写真は撮って出しをサイズ調整しただけのものだが、この写真だけは車のナンバーにぼかしをいれさせてもらった。ほとんど視認できないが、私のようなmachineには見えてしまう可能性もあるからな。

 

もう一枚、私の知らない空を紹介させていただきたい。

この写真についてゾンちゃんは多く、いやほとんど何も語らなかったが何か特別、もしくは特殊な思いがあるのだろうか。私の瞳は空と、空を映す電車の色彩に気を取られていたのでそれを尋ねる前に、次の写真へと進んでしまったのだが。(気を取られていなかったら聞いたのか?と問われると、答えようがないのだが。)

 

さて、最後の一枚だ。

もう少し話していたい気がするが、彼女が今起きていられる中、一緒に見ることができた空の写真は、この四枚だけなのだよ。ああ、でも安心してほしい。私はこの最後の一枚を、この後一人で一時間三十分は眺めているだろうから。

もしこの写真にタイトルを付けるとしたら「祈り」だろうか「願い」だろうか。それとも「祈りは通ずる」と少し凝ってみるべきだろうか。

何にせよこの写真は私の撮ったものではない。だから今の私には、彼女が目覚めた時「仮にこの写真にタイトルをつけるならば」という問いかけをする楽しみがある。

もしかするとそれは「仮」ではなくなるかもしれないが。

 

私はナノマシンのソドム-Y。

どうあがいてもゾンちゃんに変わってあげることも、なることもできない。だからこそ良いのだ。私が彼女になってしまったら、私は彼女の撮った写真を見ることができなくなってしまうのだから。

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